基礎知識

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退院後の生活

公開日:2019年7月19日
院長 渡邉雅貴先生

心臓弁膜症は、外科手術やカテーテル治療によって症状が大きく改善しますが、継続的な治療や定期検診、そして治療効果を高めるための生活の工夫が欠かせません。

ここでは、弁膜症の術後の治療や生活について一般的な例をご紹介します。

外科手術やカテーテル治療のあと生活がどのように変化するのか、不安を抱える方が多いと思いますが、あらかじめ知っておくことで不安がやわらぐこともあります。

さらに詳しいことや経験者の声を知りたい方は、PPeCC(ピーペック)サロンもあわせてご利用ください。

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退院後も血液をサラサラにするお薬を飲む

弁置換術後、機械弁の方は生涯、生体弁の方は3カ月間、血液をサラサラにする「抗凝固薬(ワルファリン)」を飲む必要があります。抗凝固薬を飲むことで、血栓という血の塊ができるのを防ぐことができます。

もしも血栓ができ、それが脳の血管や、心臓に栄養と酸素を供給する冠動脈など重要な血管に飛んでしまうと、命にかかわる病気を引き起こすこともあるため、抗凝固薬の飲み忘れには十分注意しましょう。

また、抗凝固薬の効き目には個人差があります。効き具合に合わせてお薬の量を調節するため、服用中は月1回程度、血液検査を行います。血液検査(受診)の間隔も患者さんにより異なるので、主治医の説明をよく聞き、疑問があれば尋ねるなどしましょう。

抗凝固薬の服用中はこんなことに注意を

お薬の飲み忘れに注意しましょう

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飲み忘れを防ぐおすすめの方法は、毎日同じ時間に飲む習慣を付けることです。万が一飲み忘れた場合には、気づいたときに1回分を飲んでください。次の日まで気づかなかった場合には、その日の分を飲むだけで大丈夫です(飲み忘れた分は飲まない)。2回分を一度にまとめて飲むのはやめましょう。

医師から言われた通りの薬の量を飲みましょう

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自分の判断でお薬の量を増やしたり減らしたりするのは、危険なので絶対にやめましょう。

食べ合わせや飲み合わせに注意しましょう

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別のお薬や食べ物の成分が、抗凝固薬(ワルファリン)の効き目に影響してしまうことがあります。例えば、ビタミンKはワルファリンの効果を妨げる可能性があるので、ビタミンKを多く含む納豆、クロレラ、青汁を食べることは避けましょう。緑黄色野菜にもビタミンKが多く含まれますが、一度に大量に食べなければ問題ありません。

別のお薬との飲み合わせで問題が起きるのを避けるためには、抗凝固薬以外のお薬を飲むときや、今一緒に飲んでいる薬をやめるとき、風邪薬や鎮痛薬など薬局で買う薬を飲むときなどは、必ず主治医に相談しましょう。

出血やけがに注意しましょう

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抗凝固薬を飲んでいると、どうしても出血しやすくなったり、血が止まりにくくなったりします。そのため、けがなどによる出血には十分気をつけましょう。また、手術や歯を抜くなど、出血する可能性のある治療を受ける場合には、必ず主治医に相談してください。

自分が飲んでいるお薬を覚えておきましょう

“何のために”“どんなお薬を”“どのくらい飲んでいるか”を覚えておくと、ほかの医療機関を受診するときに伝えることができ、お薬の重複や飲み合わせでよくない影響が出るのを避けられます。『お薬手帳』を利用すると、より安心です。

自分が飲んでいるお薬を覚えておく、あるいは『お薬手帳』をいつも持っていると、災害にあって避難したときに、災害医療チームなどにどんなお薬が必要かをきちんと伝えることができます。

INRという検査値を覚えておきましょう

INRとは、血の止まりやすさを示す検査値です。INRが基準値よりも高い場合は、血が止まりにくいと判断します。抗凝固薬を飲んでいると血が止まりにくくなるため、INRの定期チェックが不可欠です。

自分のINRを覚えておくことは、治療の理解につながり、患者さんの治療参加という意味でも大切です。

INRは、一般的な高凝固療法中は2.0〜3.0、弁膜症治療で機械弁を入れている場合は3.0〜3.5にコントロールするのが普通です。

適度な運動を心がける

心臓の手術を受けたあとでも、なるべく早いうちから体を動かす方が早期の回復につながることがわかっています。入院中から心臓リハビリテーションを行うのもそのためです。退院してからも適度な運動を続けることによって、心臓の機能や体力は順調に回復していきます。

運動量の目安として、身体活動に必要な酸素量を表すMETs(メッツ)という単位があります。例えば、座って安静にしている状態は1METs、普通の速さの歩行は3METsに相当します。

適切な運動や制限した方がよい運動について、METsを目安に医師と相談してみてはいかがでしょうか。

表3 METsの例

METs 活動内容
2~3 ゆっくり歩く、2階までゆっくり昇る、調理、シャワー・入浴 など
3~4 布団を敷く、床・窓ふき、風呂掃除、10kgの荷物を背負って歩く、自転車、ラジオ体操、ゴルフ、ゲートボール など
4~5 軽い草むしり、介護、10kgの荷物を抱えて歩く、水中歩行、ダンス、テニス、バレーボール、夫婦生活 など
5~6 軽い農作業、プール(ゆっくり泳ぐ)、野球 など

HP 厚生労働省 第3回「標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会」参考資料4「身体活動・運動の単位」

定期検診を忘れずに

抗凝固薬を服用している間は、医師の指示に沿って定期検診を受けましょう。何かにぶつけたりした記憶がないのに皮下出血したり、髭剃りのあとに出血が止まりにくいなどの症状があれば、すぐに主治医に相談してください。便が黒くなった場合は、胃や腸で出血している可能性があるので、同様に主治医に連絡しましょう。

生体弁の方で、抗凝固薬の服用が終わった場合でも、1年に1回は詳しい検査を受けることで異常を早期に発見できます。今までになかったむくみや息切れ、動悸などが起こった場合は、すみやかに主治医に相談してください。

弁の再手術について
生体弁の場合、15~20年で弁の異常や劣化により再手術が必要になる可能性があります。
患者さんによっては、植え込んだ生体弁と自分の組織が合わず、術後早期に再手術が必要になることもあります。
機械弁は弁自体の耐久性が高いため、心臓の機能が原因で異常が起きない限り再手術が必要になることはありません。

術後を健やかに過ごすためのヒント

健康チェックを心がけましょう

自分の体調や心臓の調子を知ることは、再発を防止し健康状態を維持するうえで非常に重要です。

毎日の体重測定
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朝起きてトイレに行ったあとなど、決まったタイミングで体重を測りましょう。心臓の調子が悪いときには体に水分がたまってむくみ、体重が増えることがあります。

また、体重の増減の陰に様々な病気が隠れている可能性もあります。食べ過ぎや飲みすぎも心臓に大きな負担がかかるので、体重の変化を気にかけるようにしましょう。

毎日の脈拍・血圧測定
術後に不整脈などの症状が現れる場合があります。体調の変化にすぐ気づけるように、脈拍と血圧を毎日測りましょう。
脈拍は1分間の脈拍数を測り、脈の強さ、脈が規則的かどうかを確認。血圧は起床後と就寝前の1日2回計測しましょう。
むくみ、息切れ、動悸の有無
心臓の調子が悪くなると、体に水が貯まって顔や手足にむくみが生じたり、肺に水がたまって咳、痰、息切れが生じたりすることがあります。
また、動悸、めまい、ふらつき、脈の乱れなど、不整脈の症状が現れることも。このような症状が起こったら、すみやかに主治医に相談してください。

健康的な日常生活を送りましょう

睡眠・休養
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十分な睡眠と休養は、健康を保つ基本です。
疲労を回復し、ホルモンバランスを整えて体の調子をよくします。睡眠不足や過度な疲労は、心臓にも負担をかけるので避けましょう。

食事
塩分、カロリー、コレステロールを控えめにした食事を心がけましょう。
“心臓にやさしい”がコンセプトのレシピを紹介しているサイトもあるので、参考にしてみてはいかがでしょうか。
HPハートレシピ-日本心臓財団
気をつけたい日常の動作
 
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開胸手術を受けた方は、胸骨が完全に癒合(ゆごう)するまで3カ月ほどかかるため、術後3カ月間は胸骨に負担のかかる動作は避けましょう。
例えば、重いものを持つ、リュックサックを背負う、体を大きくひねるなどの動作は胸骨に大きな負担がかかります。

仕事
仕事内容にもよりますが、弁膜症の手術を受けたあとでも仕事への復帰は可能です。実際に、多くの患者さんが仕事に復帰しています。

ご自身の運動能力や心臓への負担を考慮し、主治医や職場の担当者などと相談しながら、仕事への復帰時期や復帰後の仕事の仕方について計画を立てましょう。
運動・スポーツ
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適度な運動は、体の循環をよくして日常生活の中の小さな不調を改善し、QOL(生活の質)を高めてくれます。主治医と相談し、手術の傷に障らない範囲で積極的に取り入れましょう。まずはウォーキングから始め、慣れてきたらほかの運動にもチャレンジしてみましょう。

ゴルフ、テニス、水泳などのスポーツは、経過が良好なら術後3カ月頃から可能になります。もともと持っている病気や、心臓の調子によっては難しいこともあるため、主治医に相談しながら無理のない範囲で楽しみましょう。

抗凝固薬の服用中は、血が止まりにくくなっているためけがに注意してください。

感染症の治療
虫歯・歯周病、痔、けがなどは、傷口から細菌が入り込み、感染性心内膜炎を発症する原因となる可能性があります。 虫歯・歯周病、痔などはきちんと治療し、けがをしたときも医療機関で処置を受けましょう。
お酒
大量の飲酒は、心臓、胃腸、肝臓に負担をかけます。たしなむ程度で楽しみましょう。
たばこ
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喫煙はあらゆる心疾患の危険因子になるので、禁煙しましょう。
どうしても禁煙できない場合は、医療機関で禁煙治療を受けるという方法もあります。

性生活
性行為は心臓に負担がかかり、症状が悪化する場合があります。
そのため、性生活は普段の生活ができるようになってから、体調と相談しながらということになります。まずはゆったりとした気持ちで抱き合うところから始めるなど、あせらず慎重に取り戻していきましょう。

β遮断薬(べーたしゃだんやく)などの心不全治療薬を服用されている方は、勃起障害になることがあります。
その対策として、勃起障害治療薬(バイアグラなど)を使用されることもあると思いますが、勃起障害治療薬には、めまい 、低血圧、体の熱感などの副作用があり、ほかの薬の影響により副作用が強く出る場合もあります。

とくに、狭心症の発作時に使う血管拡張薬のニトログリセリン製剤との飲み合わせが悪く、血圧の下がった状態が続き死に至る例もみられます。勃起障害治療薬を使用する場合は、必ず弁膜症の主治医に連絡してください。
妊娠
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妊娠中にワルファリンを服用すると、胎児に影響が出ることがあります。
また、授乳している場合はお子さんに出血傾向が現れることがあるため、ワルファリン以外の抗凝固薬で対応しますので、主治医とよく相談しましょう。

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