基礎知識

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どんな治療?

公開日:2019年7月19日
院長 渡邉雅貴先生

心臓弁膜症の治療は、病気の重症度や患者さんの体の状態によって異なります。軽症で自覚症状もない場合は経過観察ということもありますが、すぐに外科手術が必要なこともあります。

どのような治療が適しているのか、循環器内科や心臓血管外科をはじめ様々な診療科の医師と複数の職種がチームを組み、患者さんのライフスタイルや考えも聞きながら、一人ひとりの患者さんに最適な治療方針を決定します。

①経過観察

軽症から中等症で自覚症状がない場合は、定期的に検査を行い、進行の状況を確認しながら必要に応じて治療を開始します。

いまは軽症でも、何年かたつうちに進んでしまうことがあるので、検査のための通院を中断しないようにしましょう。日常的な診察や検査は自宅や職場近くのかかりつけ医で行いながら、弁膜症の治療経験が豊富な循環器内科医にも定期的・継続的に受診することが重要です。

②薬物治療

中等症以上の場合、心臓の機能を保護して進行を遅らせるお薬で治療します。自覚症状がある場合は、それをやわらげるお薬も使います。

よく使われるのは、血管拡張薬と利尿薬です。血管拡張薬は、血管を広げることによって血液の逆流やうっ血を改善する効果があります。利尿薬は尿量を増やすことで、うっ血やむくみ改善させます。

③外科手術、カテーテル治療

薬物治療で改善が見込めないときは、外科手術やカテーテル治療を考えます。最終的にはこれらが最も効果的な治療法となります 外科手術には弁形成術と弁置換術の2種類があります。弁形成とは、いわば弁を修理することです。一方、弁置換は、開閉がわるくなった弁を人工弁に置き換える手術法です。

外科手術による治療の歴史は長く、約50年前から行われ、高い治療成績をおさめています。

カテーテル治療は、体への負担が少ない低侵襲手術の1つで、近年大きく進歩しました。持病や高齢のために手術が難しいとされていた患者さんに対して、新しいカテーテル治療が行われることも増えています。

弁形成術

弁の傷んだ部分を取り除いて縫い合わせるなど、弁を修理して機能を回復させる手術です。弁を補強するためのリング(人工弁輪)を用いることもあります。

弁形成術の長所は、自分の弁を使い続けることができ、術後に血を固まりにくくするお薬を飲む必要がないことです。一方、手術にかかる時間が弁置換に比べて長いことや、将来的に弁置換が必要になることもあることなどが短所といえるでしょう。

弁置換術

弁形成では対応できないときや、持病や高齢のために長い手術時間に耐えられないと判断されたときは、弁置換術を行います。

人工弁には「機械弁」と、ウシまたはブタの心のう膜を用いた「生体弁」の2種類があり、それぞれ長所と短所があります。年齢やライフスタイルに応じて、どちらの弁が適しているか主治医とよく相談して決めましょう。

人工弁の種類と特徴

                 

機械弁

材料:パイロライトカーボンという炭素繊維やチタンでできている

長所:耐久性が高く、多くの場合一度置き換えれば一生もつ

短所:弁に血液がこびりついて血栓ができることがあるため、血を固まりにくくするお薬(抗凝固薬)を生涯飲む必要がある

生体弁

材料:ウシまたはブタの心のう膜を加工して作製

長所:血栓ができにくいため、抗凝固薬を飲むのは手術後3カ月間のみ
感染症に強いという特長もある

短所:耐久性が機械弁に比べ低い。15~20年で弁の異常や劣化により再手術が必要になる可能性がある。中にはより早期に再手術が必要になる場合がある。

外科手術とカテーテル治療について

外科手術は胸を切開して弁形成や弁置換を行う治療法です。一方、カテーテル治療は、太ももの付け根などから細い管(カテーテル)を挿入して弁形成や弁置換を行います。

カテーテル治療の方が体への負担は少なくてすみますが、年齢や持病の有無によって最適な治療法は異なります。また、患者さんの血管や弁の状態によっては、カテーテル治療よりも外科手術の方が適していることもあります。

主治医が、患者さんや家族の考えも聞きながら最適な治療法を提案してくれますので、納得できるまで説明を受けましょう。

外科手術
一般的な外科手術

胸骨(胸の中心の骨)を縦に約15~25cm切開する「胸骨正中切開」で行います。全身麻酔で行い、手術時間はだいたい3~5時間です。術後10日~2週間程度の入院が必要です。

手術当日は、麻酔の影響であまり痛みを感じない方が多いようです。麻酔が切れてくると痛みますが、痛みの程度に応じて鎮痛薬が処方されるので、我慢せずに痛みを訴えましょう。痛みが完全に消えるまでには、数週間から長ければ数カ月かかることもあります。

低侵襲心臓外科手術(MICS:ミックス)

胸骨は切開せず、胸の右側を3~10cm程度切開する「右肋間開胸」などの方法があります。全身麻酔で行い、切開したところから高解像度カメラを挿入し、医師はその映像を見ながら特殊な手術器具を使って弁形成または弁置換を行います。

MICSのメリットは、一般的な外科手術と比べて傷が小さいため出血が少なく、感染のリスクも低く体への負担が小さいことです。傷跡も小さくてすみます。

しかし、より複雑な弁の修理が必要な場合や、過去に肺の手術や放射線治療を受けたことがある方、循環器疾患を持っている方などは、一般的な外科手術を受ける方がよい場合もあります。

カテーテル治療
経カテーテル大動脈弁留置術(Transcatheter Aortic Valve Implantation、TAVI:タビ)

大動脈弁置換術をカテーテル治療で行う方法です。重症の大動脈弁狭窄症で、持病や高齢などのために外科手術が困難な方を対象とする新たな治療法です。

主に太ももの付け根(鼠径部(そけいぶ))から、皮膚に小さな穴を開けて血管にカテーテルを通し、小さく折りたたんだ人工弁(生体弁)を挿入します。太ももの付け根ではなく、肋骨の間に小さな穴を開けてカテーテルを入れる方法もあります。

人工弁は、風船(バルーン)を使って広げるタイプと自然に広がるタイプがあり、どちらも適切な位置に置くことで安定します。

麻酔は、全身麻酔で行う場合と局所麻酔で行う場合があります。全身麻酔の場合は術中に痛みを感じません。局所麻酔の場合は多少痛みを感じますが、体への負担は全身麻酔に比べ少なくてすみます。

治療に要する時間は1~3時間程度で、24~48時間後には起きて歩くことができ、一般的な入院日数は術後3~5日程度です。胸骨を切開することも心臓を止めることもないため、外科手術よりも早い回復が望めます。

TAVIは2013年に保険適応となり、経カテーテル的大動脈弁置換術関連学会協議会の認定を受けた病院で行われています。

図 経カテーテル大動脈弁留置術

TAVIの図
経皮的僧帽弁接合不全修復術
僧帽弁形成術をカテーテル治療で行う新しい治療法です。対象となるのは、持病や高齢などの理由で手術が困難な重症の僧帽弁閉鎖不全症の患者さんです。

僧帽弁は、前尖と後尖という2枚の弁で成り立っています。経皮的僧帽弁接合不全修復術では足の静脈から心臓にカテーテルを通し、小さなクリップで前尖と後尖を引き合わすことで、逆流する血液の量を減らします。

術後は早期に起きて歩くことができ、入院日数は通常1週間程度です。ただし、薬物療法の調整などのために入院が長引くことがあります。

経皮的僧帽弁接合不全修復術は2018年に保険適応となり、日本循環器学会の認定を受けた病院で行われています。

図 経皮的僧帽弁接合不全修復術

経皮的僧帽弁接合不全修復術の図

外科手術やカテーテル治療の直後の体調の変化について
麻酔の影響で、麻酔から覚めた後に吐き気が起こることがあります。そのほかにも、声のかすれ、足のしびれ、むくみ、味覚障害などの症状が現れることがありますが、もともと持っている持病や、手術に伴う合併症の有無により、現れ方は患者さん一人ひとりで異なります。

また、入院している間は筋肉を使わなくなるため、退院後に筋肉痛が出ることもあります。

術後の薬物治療について

①抗凝固薬

心臓に植え込んだ人工弁が機械弁か生体弁かによって、抗凝固薬を飲む期間は異なります。

機械弁による弁置換を行った場合は、弁の材料(炭素繊維やチタンなど)を体が異物として認識するため、弁に血栓という血の塊が生じやすくなっています。このため、術後は生涯にわたり血液を固まりにくくする抗凝固薬を飲み続ける必要があります。

生体弁は体内で異物として認識されることはなく、血栓が生じにくいため、抗凝固薬を飲むのは一般的に術後3カ月間のみです。

②抗血液凝固薬以外のお薬
  • 利尿薬
  • むくみを取り除き、心臓への負担を減らすために服用します。

  • そのほかのお薬
  • 状況に応じて、胃薬、便秘薬、鎮痛剤などが処方されます。
    高血圧、糖尿病、不整脈、脂質異常症などの持病がある場合は、それぞれに対する投薬が行われます。

術後は心臓リハビリテーションが必要

心臓リハビリテーションとは、心臓の手術のあとなどに行うリハビリのことです。術後は心臓の働きだけでなく体力も低下していますが、心臓リハビリテーションを行うことによって、安全にそれらを回復させることができます。

術後の早期回復と再発予防のために入院中から心臓リハビリテーションを受けることが推奨されているので、できれば心臓リハビリテーションを実施している医療機関を受診しましょう。

心臓リハビリテーションには自信の回復という効果もあります。医師や理学療法士、作業療法士の指導に従って積極的に取り組みましょう。

図 心臓リハビリテーション

心臓リハビリテーションの図
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