多様な弁膜症を持つ人の思いを大切にしたい

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寺田 恵子(てらだ けいこ)
1976年生まれ
心臓弁膜症ネットワーク 理事
社会福祉士・精神保健福祉士
大動脈弁閉鎖不全症診断後、経過観察中

寺田さん お写真

妊娠・出産と全身性エリテマトーデスが教えてくれたこと

全身性エリテマトーデス(Systemic lupus erythematosus:以下SLE)と診断されたのは、今から25年前の事です。SLEとは自己免疫性疾患の一つで、全身の様々な臓器に炎症や組織障害が生じる病気です。

SLEについては高校生の時に入院しましたが、現在は薬を服用し生活に注意をしていれば日常生活には殆ど支障がない状態です。もしかしたら、体がだるいことが日常のことすぎて、大変だと感じなくなっているのかもしれません。ただ、強い紫外線を浴びることは止められていますので、若い頃に友達とリゾート地へ行って楽しむということを味わえなかったのは残念なことです。

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普段生活する上ではほとんど支障を感じないSLEも、妊娠する上では大きなリスクだった

普段はあまり不都合を感じていないSLEですが、妊娠・出産のときはさすがに自分の病気を恨みました。妊娠・出産はストレスが大きいことなので、母子ともにリスクが高いことは理解していました。SLE患者の妊娠・出産を反対する医療者もいるのが現実です。しかし母親になりたいという夢は簡単には諦められませんでした。

やがて妊娠・出産を後押ししてくれる医療機関が見つかり、やっとのことで妊娠に漕ぎつけたのですが、里帰り出産をするために元々の主治医がいた(SLEの診断を受けた)大学病院にかかると医師に「なに妊娠なんかしているんだ」と怒られ、そのまま入院、出産ということになってしまいました。

出産も大変で、31週と5日の時に子供の心拍が弱くなってしまい、1,000gもない未熟児で出産しなくてはならなくなりました。私と赤ちゃんとを繋ぐ胎盤に血栓ができてしまい、酸素や栄養が十分に届かない状態だったのです。この体験は本当に辛く、産後うつとなってしまい、元の自分に戻れるまで何年もかかってしまいました。

ものごとに真正面に向き合いすぎてしまい本当に辛かったのですが、離婚をきっかけに、徐々にそのストイックさを少し緩めてもいいかなとようやく思えるようになってきました。
娘と二人だけの生活の中、「ちゃんと子供を育てる」という義務感はあるものの、時間も体力的にも全てを一人でするには限界があります。そうなると両親や兄家族に頼らざるをえず、他人に甘えてもいいということを覚えました。

楽しみのひとつ お写真
忙しい日々の中でも、夏休みには娘さんと箱根へ旅行し、仲良く並んで足湯に。ライブに行ったり、通勤時の読書も楽しみのひとつです。写真(右下)は年末から読んだ本たち。

弁膜症とSLEの受け入れ

心臓弁膜症の診断を受けたのはまだ昨年の8月のことです。経過観察中に診察室での収縮期血圧が200mmHgを超えてしまったため、今は高血圧の治療を開始しています。
初めに違和感を覚えたのは、今からおよそ2年前。寝ていると胸から肩、背中にかけての痛みを感じるようになりました。その話を診察時に主治医に伝えたところ、心エコーを実施しました。
検査中「リウマチ熱の経験はありますか?」「もう少し詳しくみたいので別のベッドへ移ってください」などと言われたら、明らかに異常があるということは素人でもわかります。

SLEは全身性というだけのことがあり、脳や心臓、神経など全臓器に症状が出てもおかしくありません。また私はSLEの合併症として抗リン脂質抗体があり、血栓ができやすい体質です。それらがわかっていたこともあり、主治医から「大動脈弁閉鎖不全」と伝えられたときは、さほど驚きもせず「そういうことか」と妙に納得し、比較的すんなり弁膜症を受け入れていました。

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病気の事だけでなく、生活のこと、周囲とのコミュニケーションなども学んでいきたい

しかし弁膜症と診断されて日も浅く、まだまだ知らないことはたくさんあります。最近になってSLEと弁膜症に関して情報を集めるようになりました。私がSLEとはじめて診断された頃はインターネットもありませんでしたし、病気についても専門書ばかりの時代でした。そのため親の言うとおり、医師の言うとおりのことをキチンと聞くことが治療において大事なことだと思っていました。

今はこの心臓弁膜症ネットワークの活動を通じて、病気のことだけでなく、それに伴う生活の事、周りとのコミュニケーションも含めて一緒に学んでいきたいと考えています。

医療者とのコミュニケーション

振り返ってみると医療者とのコミュニケーションはあまり得意とは言えませんでした。もともと医師の前にでると良いことしか言わないし、思ったことも言えませんでした。何かあってもなくても「はい、大丈夫です」と良い患者を演じてしまうのです。自分の思い込みだけでしかない優等生患者を演じていたこともあり、里帰り出産のための診察で言われた医師の言葉には深く傷つきました。
その後も担当医とはなかなか信頼関係が築けませんでした。

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医療者との関係を上手に構築していくことの重要性を語る寺田さん

そんな私と医師の関係が変わり始めたのは、日本慢性疾患セルフマネジメント協会のセルフマネジメントプログラムを受講したことがきっかけです。現在も事務局のお手伝いとしてこの活動に関わっています。

病気の自分をマネジメントしていくなかで、治療についてよく理解していくためには医師との関係づくりは大事だと改めて感じています。「このデータはどういうことですか?」とか「この薬はなんのための薬ですか?」と率直に聞けるようなり、信頼関係も徐々に築くことができてきました。心不全になって倒れてしまう前に率直に体調の変化を言い出せ、弁膜症の検査を受けられたのもこのプログラムのおかげではないかと思います。

仙台 お写真
慢性疾患セルフマネジメント協会のワークショップで仙台にも

仕事で接する患者さんを見ても、医師に対して自分のことを率直に話せない方は多くいます。そういった方は自分の体調を過少申告してしまい、結果として病態が悪化してしまうこともあります。やはり医療者との関係を上手に構築していくことの重要性を感じます。

誰でも気軽に寄れる場にしたい

私はまだ「大動脈弁閉鎖不全」と診断されただけで手術の予定も決まっていません。弁膜症によって自分自身がどのような状態になるのか全くわかりません。今の私は血管が脆くてカテーテル手術はできないので開胸手術が必要と言われています。手術の傷がどこにできて、どのくらいの大きさなのかは当然気になりますが、それと同時に自分の日常生活がどのように変化する可能性があるのか心配です。また小さなことかもしれませんが、入院中の過ごし方についても不安があります。

そんな時に弁膜症を経験されている方の体験談などを聞いたり、元気に活動されている姿を目にするだけでも、生活していける自分を思い描くことができ安心できます。

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弁膜症があってもなくても、誰でも参加できる親しみやすい会にしていきたい

弁膜症の原因は本当に様々です。心臓の病気というと生活習慣病からなるという印象がありますが、それだけであなたの生活が悪いと責められると辛い部分があります。それだけ一概に言える病気ではないからです。

だからこそ、弁膜症であってもなくても参加でき、自分の経験からも「なんとなくほっこりするね」といわれる会にしたいと思います。医療費や社会保障制度など、患者さんが知らない情報も多くあるので、仕事で得た知識を生かし、そのような情報も発信していけたらと思います。

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