自分の体験を今不安になっている人に伝えたい

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木村 慎司(きむら しんじ)
1980年生まれ
大動脈弁閉鎖不全症
介護福祉士

木村さんの写真

冷静に受け止めつつも病気と向き合いきれなかった

大動脈弁閉鎖不全症と診断される2017年まで、大きな病気を発症したことはありませんでした。日中は介護の仕事、夜は専門学校に通ってリハビリについて学ぶ日々。時間があれば趣味のバイクに乗って出掛けるなど、忙しくも充実した毎日を送っていました。

病気とはほど遠いと思っていた私が心臓の異変に気づくことができたのは、その年に受けた健康診断がきっかけです。精密検査を終え、医師から「心臓内で血液の逆流が起きています」「ただ、症状がないのであればしばらく様子を見ましょう。症状が出たらまた受診してください」と言われ、半年後にエコー検査の予約を入れました。

自覚症状は全くなかったので診断結果に少し驚きはしましたが、病気に対する知識があったおかげで冷静に受け止められたと思います。

しかし、“症状が出たら”という医師の言葉を自分に都合よく解釈し、予約したエコー検査を“症状が出ないから”とすっぽかす有様。以来、数年もの間、特に日常生活で体に気を配ることも、病院を受診することもなくそのままにしていました。

今後を見据え、実績が豊富な病院で手術を受けようと決意

初めて心臓に症状が現れたのは、診断から約6年後の2023年5月ごろ。軽く胸が圧迫されるような感覚に襲われたのです。

すぐさま初診でお世話になった病院でエコー検査を受けたところ、血液の逆流が重症化していることが判明しました。医師の勧めもあり、できるだけ早く手術を受けようと決意。

引き続きその病院で手術を受けることもできたのですが、「より心臓手術の実績が豊富な病院で手術を受けたい」という気持ちから、スマートフォンを駆使して自力で病院を探しました。幸いにも「ここで手術を受けたい」と思える病院を見つけられたため、紹介状を手に次の病院を受診したのです。

紹介先の病院では、「手術後はできるだけ早く仕事に復帰したい」と相談。その結果、手術支援ロボットを使った小切開心臓手術を受けることになりました。ダメージを受けた大動脈弁を機械弁に置き換える「大動脈弁置換術」を行うことも決まり、具体的な手術方法や、手術後の日常生活における注意点などを丁寧に説明してもらいました。

その説明の中で、手術後は機械弁に血栓ができないよう、抗凝固薬(ワルファリン)の服用が生涯欠かせなくなること、また納豆などのようにワルファリンの作用を弱める食べ物は手術後に控える必要があるとの説明も受けました。納豆は好物なので控えなければならないと知ったのは辛かったですが、事前に説明していただいたおかげで入院前に存分に食べ収めできたのはよかったですね。

手術を経て徐々にかつての日常へ

手術を決断してから約半年後、手術準備のための入院生活が始まりました。

主治医を信頼していたため、手術に関する心配はゼロ。もっぱらの心配の種は「以前のように働けるだろうか」「胸の圧迫感は治まるだろうか」と、手術の後のことばかり。手術前日、主治医から手術の説明を受けるために同席してくれた妻も、冷静に受け止めてくれていました。

とはいえ、手術が終わって麻酔から目が覚めたときは、「手術は終わったんだ」とほっとしたのを覚えています。手術創の痛みはありましたが、胸の圧迫感はなくなっていましたし、術前のエコー検査で「正常の3倍ほどに肥大している」と言われた心臓は小さくなっていることが確認できたそうです。主治医から、「あと1年ほどで心臓は元の大きさに戻るでしょう」と言われ、手術を受けてよかったと心底安心しました。

手術後は、ペースメーカーやバルーンカテーテル、管がつながれていたため体を動かせず、何をするにも人の手が必要でした。さらに手術前から水分制限が続いていたため喉はカラカラでしたし、痛み止めがあまり効かなかったので、手術後3日間は正直辛かったですね。

しかし、体につながっていた管が取り外された時や、リハビリの先生から「順調ですね」と励まされた時、自力でトイレやシャワーを利用できるようになった時など、少しずつですが、かつての日常に戻りつつあると実感できるたびに、嬉しさや強い達成感を抱きました。

木村さんと愛猫の絵画の写真
自宅にて愛猫の絵画と

心配だった仕事は手術から約2か月で完全復帰

約2週間の入院期間を終え、自宅に帰ってからは散歩などをしつつ体を日常生活に慣らしていきました。散歩は無理のない程度に抑えていたものの、心配していた胸の圧迫感や息切れなどの症状はなし。仕事に復帰するまで暇だったこともあり、「高尾山に行きたい」と言って、妻に一蹴されるほど体調がよかったのを覚えています。

介護の仕事には退院から2週間ほどで復帰。夜勤のある職場に勤めているのですが、復帰後約1か月は日勤のみにしてもらい、様子を踏まえてさらに1か月後には夜勤にも復帰できました。体格が大きい方の介護もできますし、胸の圧迫感が取れたので手術前よりも元気になったと感じています。職場の方の理解が厚く、たくさんの配慮やアドバイスをいただいたことがありがたかったです。

職場にて

仕事も趣味も「病気だから」と諦めない

診断を受けたとき、手術を受ける前など、さまざまな情報を集めては落ち込むことがあると思います。

私は手術する前、動画配信サイトで「肥大した心臓は簡単には元に戻らない」と発信する動画を見て落ち込んだこともありますし、「以前のように働けるだろうか」という不安に襲われることはしょっちゅうでした。しかし、手術を受けたことで心臓の肥大は落ち着き、介護の常勤職員として今も元気に働いています。

ちなみに、長年の趣味であるバイクも「病気だから」と諦めることはせず、退院後に再開しました。もちろん主治医には相談済みで、ケガのリスクを抑えるためにプロテクター付きのジャケットを着用するほか、万が一の事故を想定して、免許証の裏にワルファリンを服用していることを記載しています。

食事面で気を付ける必要はあるものの、変わらず今の生活を送れているのは、主治医をはじめ、看護師や関わって下さった病院スタッフの方々のお陰です。また家族の支えや職場の方々の理解、協力があって今の自分がいると思っています。本当に感謝しかありません。

この体験談を読んで下さる方の中には、手術を控え不安を抱えている方もいらっしゃると思いますが、体験談を通して手術後も元気に働ける可能性は大いにあることが伝わり、そして少しでも不安が軽減できれば嬉しいです。

趣味のバイクと
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